35階から落ちてきた恋

チンっと音がして目の前のエレベーターの扉が開いた。

「果菜、乗った?」

「はい。乗りました」
幸い同乗する人はいなかった。これは35階直通エレベーターだから途中で誰かが乗ってくることもない。

「外が見えるガラス側ぎりぎりに立って下を見ていて。目を離すなよ」

そう言って電話は切れてしまった。
外を見て?しかも下??

シースルーエレベーターの中のガラス面いっぱいに近付いて目を凝らして下を見る。
エレベーターは35階から下降して徐々に地上が近付いてくる。

下の広場が見えてくる。
うん?

小さな人物が次第に大きくなる。

その人は顔を上げてこちらを確認するように見上げると大きく両手を広げた。

あれ、進藤さんだ。

更に下降するエレベーターの中から進藤さんの顔がしっかり見えるようになる。
笑顔の進藤さんは更に大きく両手を広げた。
まるで落ちてくる私を受け止めようとするように。

私は大きく目を見開いて進藤さんを見つめてシースルーのガラスに貼りつくように立ち尽くす。

そうして私は進藤さんが私と別行動した理由を知った。
彼は下で私を受け止めてくれるつもりらしい。