35階から落ちてきた恋

彼の後ろ姿を見送る。

どうしたんだろう。私と一緒にお店を出てはいけない事情があるんだろうか。
週刊誌記者が張っているとかファンの子に見つかったとか?
でも、彼がさっき言ったように今はもう隠れる必要もない。

理由はわからないけれど、とにかく今は進藤さんに従うしかない。

夜景をじっと見つめていると、5分もしないうちにスマホが震える。
進藤さんからの着信。

店内で電話に出るなんてマナー違反だ。
スマホを握りしめて素早く立ち上がり、『Moderato』の出口に向かいカウンターにいるアツシさんに会釈をしてドアを出てスマホをタップした。

「もしもし」
「果菜、店を出た?」

「ハイ。今出ました」
「じゃ、電話はこのままでエレベーターに乗って降りてきて」

「エレベーターに乗ればいいんですね?」
「そう」

「わかりましたけど、進藤さんはいまどこにいるんですか?」

「秘密」

秘密って・・・。
普段聞かないような子供っぽい言い方。
でも、スマホ越しに耳元で私の好きな彼の低音ヴォイスで囁やかれて私の心臓がドクンと跳ねた。
この人のこの声ってホントにセクシーで私の心臓に悪い。