35階から落ちてきた恋

「全て進藤さんにお任せしますね」
真っ直ぐ進藤さんの目を見返して、それから微笑んで見せた。

「引き返せないぞ」

「はい」
もちろん、もう引き返すつもりはないですよ。・・・私はね。

「進藤さんはいいんですか?」
改めて聞いてみる。

そういえば、いつも私のことばかり。進藤さんは引き返せなくなっていいんだろうか?

「もちろん。もともと俺は初めから引き返す気なんてこれっぽっちもないけど?信じられない?」

「うーん、どうなんでしょう。信じてるというよりは信じたいって感じかな」

進藤さんは呆れたような顔をした後「わかった」と私の頭をポンとする。

「じゃ、俺の本気を見せるとするか。早速”仮の新居”に行くぞ」
グラスに残ったウイスキーを飲み干して立ち上がった。


「果菜はもう少しここにいてくれ」

一緒に立ち上がろうとした私の肩を軽く押さえて押しとどめる。

「どうして?」

「いいから。スマホを出しておけ。俺から電話があったらお店を出て来て欲しいんだ。果菜、いいか?わかったか?」

そんな事をする理由がよくわからないけど、わかったと頷くと、進藤さんはにこりといつもよりきれいな笑顔を見せて
「じゃあ、あとで」と出て行ってしまった。