「お帰りなさい。会いたかったです」

「珍しいな。果菜がそんなこと言うなんて。明日はやりでも降ってきそうだ」
エスコートしながら私の耳元に口を寄せて囁く。

私の言葉を信じていないのだろう、からかうような口調だ。

「そうかもしれませんね」
くすっと笑って進藤さんの肩に頭をのせるように寄せると、進藤さんは心底驚いたようでピタッと立ち止まる。

「果菜、本当に何かあった?」
心配そうに顔をのぞき込まれる。

「何にもないですよ」
ニコッと笑って「座りませんか」といつもの席に視線を向けると、進藤さんは私の表情を確認して「そうだな」とまた歩き出した。

本当は何もないわけじゃない。
私の中で大きな意識改革があった。

侵入者騒ぎで気が付いた私の我慢していた気持ち。
自分に注目が集まり、自分の知らないところで暴露されるプライベート。
今までそれら全て見ないふりをしていただけだったこと。
進藤さんに理解されていないと思ったこと。

今はそれら全てがどうでもなく思えるくらい進藤さんが愛しくて、進藤さんと一緒にいたいと思うこと。
そして、それを進藤さんに伝えたいと思っていること。

私には進藤さんが九州に行っている間に考える時間があった。