進藤さんが少し俯いて髪をくしゃくしゃっとかいて照れくさそうに目を細めると、会場内は女性の悲鳴と男性のどよめきに包まれる。
う、嘘・・・。
レアだ。
普段ポーカーフェイスの新藤さんの人前でのこんな表情は激レアだ。

ユウキさんとヒロトさんは手を叩いて喜び、司会者は驚きで一瞬固まっていたけれど、すぐにヒューヒューとはやし立てている。

「タカト、ファンのみんながタカトの歌を聴きたいそうだけど?」
「うーん、ごめん。俺の本職はギターだから。みんなの前で歌うことは考えてないんだ」

ええー!と観客席からがっかりした声が飛ぶ。

「じゃ、月の姫の歌声の公開なんてのは?」
「無理ですね。そんな事したらうちの姫は倒れるんじゃないかな」

「きゃー、姫だってー!」
「姫出してー」
キャーと歓声が飛びかう中、進藤さんは照れくさそうな顔を隠すことなく
「恥ずかしがり屋だし、あれは俺だけのための歌声なんで」
と笑った。

おおーっという低い声やわーわーキャーキャーと黄色い声に包まれて会場内は騒然とした雰囲気になり、進藤さんの照れ笑いを見たユウキさんたちはお腹を抱えて笑っていた。

私は驚愕して持っていたカフェオレのカップを落としてしまいお気に入りのラグにコーヒーのシミが付いてしまったけど、そんな事も気にならないほど全身硬直していた。

息もできないってこんなことを言うんじゃないだろうか。

これって、現実?

あの進藤さんが公の場で照れるとか、私のこと話すとか。

あり得ない。