山崎社長は転居のためすぐにセキュリティのしっかりしたマンションを探しだし、候補の絞り込みまでしてくれていた。

間取り図がついたマンションのパンフレットが社長のお宅のリビングのテーブルにずらりと並ぶ。

「果菜はもっと広い方がいいか?」
「こっちとこっちはどっちがいい?駅に近いのはこっち」
「キッチンはアイランドが方がいいのか?」

進藤さんが熱心に一つ一つ手に取り読み込んで更に数件に絞り込む。
そして、二人は私に意見を求める。

「あの、私は進藤さんのお宅に伺っているだけで住むのは進藤さんだし。なので、私の意見は気にしなくても」
と言うと明らかに進藤さんの機嫌がさらに悪くなり社長は驚いた顔をした。


そうなのだ。
私はあれから彼の部屋に泊まっていないばかりかこのところろくに彼と会ってもいなかった。。
犯人が捕まるまでの3日間は2人でホテルに泊まったのだけど、それから私は自分のアパートに戻っていた。

ちょうど進藤さんはニューアルバムのキャンペーンで全国あちこちに出掛けることが多く、彼の留守中私はホテルから自分のアパートに戻ることは反対されなかった。

なおさら進藤さんのあのマンションに私がひとりで戻る意味は無い。今回の犯人が捕まっても新たな侵入者に怯えて眠れないに決まっている。

もちろんマンションの鍵は新しいものに変わっているし、管理会社の服務規定もより厳重になっているだろう。
でも、もう怖くて一人であの部屋にはいられない。

あれからマンションの管理会社と事務所の間でやり取りがされていたけど、どんな話になっているのかは聞かなかった。
今更謝罪などされてもネットに上がってしまったものは取り消せないのだし、それ以上に精神的に参っていた。