確かに数週間前、進藤さんちのクローゼットに置いている私の私物の中のTシャツが無いなと思って進藤さんの洗濯物に紛れてしまっていないかと聞いたことがあった。
私は自宅に持って帰ってしまったか置き忘れたかと深く考えていなかった。

その前は、洗面所の棚に置いておいたルージュがポキリと折れていているのを見つけたのだけど、本来あまり物事を深く考えない性格の私は何かの拍子に自分で落としたのだと思っていた。
ただ、買ったばかりだったから見つけた時にへこんだのだけど。

「一体いつからどうやって」
事の重大さに進藤さんからずいぶん遅れて気が付くと背筋が寒くなってくる。

「お前に何かがなくて良かったよ」

私を抱きしめる腕が一層強くなる。

「俺の大事な姫はまんまと騙されそうにはなってたみたいだけどな」

進藤さんの声が途中から怒っているような棘のあるものになっていて

「ごめんなさい・・・」と謝ってみたけれど、身体が震えてくる。

そんな状態でいたら不意に耳にチクリとした痛みが走った。

「いたっ」

私を正面から抱きしめてくれていた進藤さんが顔を寄せて甘噛みよりは少し強めに噛みついたのだ。
思わず涙目になる。み、耳、噛まれた。

「俺の返答次第では何か果菜に考えがあるんだったな、後でゆっくり聞かせてもらうよ。だが、先にこの件を何とかしないとおちおちここで寛ぐこともできやしない」

私の腰を抱えるようにしながら進藤さんは次々に実に手際よく電話をしていった。

私はというと、見知った顔のコンシェルジュと木田川さんが来るまで黙って進藤さんにしがみついて震えていた。