「お帰り、果菜」

「はい、ただいまです」

玄関で迎えてくれた進藤さんは笑顔だったけど、あんまり気分はよくないことはわかる。

「大丈夫だったか?変わったことはなかったか?」

私の肩を抱いてリビングに向かう表情にもいつもの余裕のようなものがない。
ずいぶん心配してくれていたんだろう。昼休みにスマホをチェックしたらこちらの状況を確認するメッセージも届いていたし。

「貴斗、お迎えに行ったのは私なんだから少しは私のことも労いなさいよ」
後ろから山崎社長の声が飛んでくる。

「ああ、社長ありがとう。で、果菜に危険なことはなかった?」

「クリニック周辺にマスコミはいなかったけど、事務所とマンション前は集まってたわね」

「そうか、そろそろ俺がコメントを出した方がいい?」

「そうね、直接コメントを出した方がこの先動きやすいと思うわ。二人とも覚悟はいい?」

進藤さんは私の肩をぐっと引き寄せて頭のてっぺんに軽くキスを落とした。

「だってさ。果菜、覚悟はいい?」

私は進藤さんを見上げて微笑む。「望むところです」

山崎社長は”おっ”っというように眉を上げて私を見て笑った。

「よし、次の手を打ちましょ。来週には新曲のプロモーションも始まるしさらに忙しくなるから今のうちに動いておきましょう」

「ああ」と進藤さんは頷いて「でも、その前に」と私の手を握った。

「果菜のご両親に挨拶がしたい」

「え、うちの親ですか?」

「当たり前だろ、果菜のご両親だろうが。心配させてしまうだろうけど、きちんと挨拶しておきたい」

思いがけない進藤さんの申し出に驚きが広がる。
誠実にしっかり考えてくれていることに感動と感謝しかない。