それからしばらくして、木下先生と外来の合間にたまたま二人きりで話す機会があった。
「水沢さんも藤川先生狙いだった?」
「いきなり直球できましたね」
「ああ、だってこのところ元気なかったし。それって藤川先生のデート現場を目撃してからでしょ?」
「よくご存じで」
なんだ、木下先生って案外記憶がいいな。
「だって、みんなわかりやすいんだよな。彼女がいるって知ったら引く子と、知ってもぐいぐいいく子と」
ああ、ほとんどが引いたのに彼女の存在を知ってからもまだぐいぐいいく子は事務の留美ちゃんだ。
「ホントによく見てますね」
「こう見えて経営者なの、僕。みんなの雇用主でもあるからねー」
「あ、そうでしたね」
「同じ職場で修羅場も困るけどさ、水沢さんはあっさりひいたよね」
「そりゃあ退きますよ。私は実際に彼女さんを見ましたからね。本当に綺麗な方だったし、それよりも藤川先生の溺愛する感じがすごくて。そっちの方がドン引き」
私は両手で自分の身体を抱きしめて身震いする仕草をした。
あははっと笑って「僕もあれから大学病院のヤツに藤川先生の溺愛っぷりを聞いたよ」と言い出した。
「あいつさ、プロポーズする前に彼女に黙って先にマンションも買ってたらしいよ」
へえ~。
藤川先生プロポーズもしてたのか。
「そんな人をしつこく追い続ける程、私には情熱もないし自分に自信もありません」