何だか、気まずい。
タクシーに私を押し込んでから進藤さんは口を開かない。
いつもと違う雰囲気に緊張で身体が固くなる。

会話もなく視線すら合わせることもなく、二人ともただ流れる景色を眺めていた。
ただ私は景色など目に入ってこない。

いつもと違う進藤さんの雰囲気に戸惑い、さっき言われた言葉が頭の中にこだまする。
以前から『Moderato』にいた私のことに気が付いていた進藤さん。
ナースとしてライブ会場に来た私のことを運命だと言った。
そして、私が知らなかったユウキさんの結婚騒動後の進藤さんの決意表明。
アツシさんが言ったこと。

私はどう受け止めたらいいのだろう。

不意に膝に置いていた私の手が温かくなる。
進藤さんの手が私の左手にしっかりと重ねられている。ハッとして隣を見ると、手を握ってきた本人は私を見ることもなく顔は窓に向いていて視線は合わない。

私の気持ち。
・・・そう、私の気持ちは決まっているじゃない。

私も黙ったまま空いている自分の右手を私の手を握る温かい進藤さんの手の上にそっと重ねた。
進藤さんは振り返ることもしなかったけれど、車内に時折入り込む街の明かりに照らされた横顔の口角が少し上がったように見えた。