昨日いろんなことを考えているうち、寝てしまっていたようだった。
床に寝転ぶ自分の体をゆっくりと起こし、眠い目をこする。

「お腹すいた・・」

結局夕飯も食べるのを忘れていたので、お腹が空いてしかたない。
大好物のボロネーゼ、食べたかったな。
そう思いながら立ち上がり、部屋のドアを開ける。

「ふぁああ~・・・」

あくびをしながら階段を降りると、哲が心配そうな顔で階段の下に立っていた。

「おはようございます、愛奈様。昨日は大丈夫でしたか?お夕飯も食べなかったようですが・・・」

昨日のことを心配してくれているらしい。でも、寝たらすぐ忘れるタイプの私はあまり気にしていなかったので、軽く答える。

「大丈夫だったよー。ていうか、いつの間にか寝ちゃっててご飯食べるの忘れてただけ」

あははっと笑いながら言うと、哲ははぁ、とため息をついて顔を少しほころばせた。

「良かったです。奥様と旦那様も心配していましたよ?」

すぐ真剣な顔になって言う哲に、私はしまったと頭を抱えた。
パパたちは人一倍私のことに敏感で心配性だから、夕飯食べなかっただけでも質問攻めかもなぁ・・・。
ていうか、パパたちのせいなんだけどね!
色々覚悟してリビングへ行こうとすると、哲は焦ったように私を呼び止めた。

「旦那様方にご友人様がお見えになられているので、今は・・」

友人・・・?パパとママが仲いい、人達・・・
あ!もしかしてっ・・・・!!
私は思わずリビングへ走り出した。
まさか・・・!!

「愛奈様、お待ちください!」

そう叫ぶ哲の声も無視してリビングへ向かう。

リビングに入ると、ソファーに座っている人たちが一斉にこちらを向く。

「愛奈!?あらまぁ、元気そうね、よかったわぁ」

ママがすぐ駆け寄ってきて、うれしそうに微笑む。
でも私の目は、ママの後ろにあるソファーに座る人に釘付けだった。
その人物はだんだんと目を輝かせ、私をしっかり見つめる。

「愛奈ぁぁ~~!!久しぶり~っ!!」

「美鈴さん、久しぶりだねぇ~っ!」

どちらかともなく抱き合う。

「イギリス楽しかったぁー」

そう語るこの少女は神崎美鈴さん。
十八歳で、高級ジュエリーショップ「KANZAKI」社長の娘。私と同じくお嬢様。
美鈴さんママと美鈴さんパパが、私のパパたちと昔からとても仲が良く、親交が深い。
一か月間、イギリスに短期留学していたほど、かなりの秀才なんだ。
しかも、美人!!
大きい瞳に筋の通った鼻、ぷっくりした唇。お人形さんのように整った顔立ちがとても愛らしいんだ。さらに、長身とスタイルの良さはモデル顔負けで。
完璧な美鈴さんは、性格も少し・・・いや、かなりナルシスト気質なの。

「美鈴さん、イギリスいって更に美人になったんじゃない?」

「何言ってんの?当たり前なんだけど」

彼女は栗色のスーパーロングヘアーを揺らして、当然と微笑した。

「完璧な私が美人なのは当然。イギリスでナンパされまくったわ」

「そうなんだぁ。イギリス、私も行きたいなぁ」

「良いところよ。あ、でも愛奈にはアダルトすぎるかしら。まだまだ純白だからねぇ、愛奈は」

「そんなことないよっ。三歳ちがうだけでしょ!」

まぁ確かに、美鈴さんは大人っぽいけど・・・。
色気ムンムンだし。