20代最後の夜は、あなたと

沼の名前が記された看板と、名前の由来や歴史が書かれた看板以外は、ベンチがふたつあるだけの静かな場所だった。


沼の透明度は深くて、沼を囲むように立っている木の影が水面にうつり、鏡のようにキレイだった。


「キレイですね」


疲れてベンチに座った私の隣に課長も座り、


「来たかいあったろ?」


ペットボトルを差し出してくれた。


「いただきます」


ミネラルウォーターが、とてもおいしく感じた。


「俺にもくれよ」


「はい、どうぞ」


私の飲みかけのペットボトルを飲む課長の唇を意識してしまい、中学生か!と自分で自分に突っこんだ。


「俺、本気で好きな子ができたら、ここに連れてきたいって思っててさ。


今日、おまえと一緒に来られて良かった」


「私も、日常から離れたキレイな場所に来られて、嬉しかったです」