20代最後の夜は、あなたと

久しぶりに見る伊勢くんのスーツ姿は、かっこよかった。


羽織ってるネイビーのピーコートも、ストライプのマフラーも、見慣れてるはずなのにまぶしかった。


「紗和、行こっか」


「うん」


カギを閉めて、手をつないで駅へ向かった。


これでいいんじゃないかな。


結婚は、タイミングだっていうし。


札幌には一人も知り合いいないけど、なんとかなる気がしてきた。



「ふーん、それで仲良くご出勤ってわけ」


「奈緒、見てたの?」


「言っとくけど、たまたまだからね。


ま、年末年始どうしてたかなーって、気にはなってたけど」


奈緒と昼休みが重なり、ランチの時に私から打ち明けた。


伊勢くんのプロポーズを、受けようと思うって。


「紗和が決めたことだから、私は応援してるけど。


伊勢くん、転職するって噂になってるよ」


「そうなの?」


「伊勢くん優秀だったから、上層部で八つ当たりしてる人がペラペラしゃべってるみたいで」


「伊勢くん、どうなるの?」


「うーん、でもどっちにしろ3月になったら有休消化するだろうし、あと2ヵ月だから引き継ぎとか始まるかもね」


「教えてくれて、ありがと」