20代最後の夜は、あなたと

伊勢くんちには、私の洋服とか荷物が多少あって、このまま泊まっても明日の出社には困らないけど。


部屋に入ってすぐ、伊勢くんは私を抱きしめた。


「紗和、俺すげーヘコんでたから、なぐさめて」


「えっ、ど、どうやって?」


「俺から言わせんなよ」


伊勢くんが私にキスして、私は必死に応じた。


「紗和、俺に幻滅した?」


「ううん、してないよ」


「怒鳴って自分の気持ち訴えるなんて、最低だよな」


「そんなことないって」


「紗和の話も聞かずに決めつけて、ごめんな」


「いいよ、もう」


「今夜泊まって、明日は一緒に出社しような」


伊勢くんに包まれて、落ち着いた。


でも、どこかで霧島課長のことを考えてしまう。


課長は今どこで何してるかとか、考えても仕方ないことばかり。


それと、もうひとつ気になっているのは、伊勢くんがプロポーズの返事を聞いてこないことだった。


せかさないって思ってるだけかもしれないけど、札幌のこともまったくふれないのは不自然な気がした。


気になるなら聞けばいいのに、言い出せないダメな私は、心地いい雰囲気にのまれて動けないでいた。