寡黙な御曹司は密かに溺愛している

あれから五日。
もう答えはほぼ出ていた。お見合いくらいしてもいいと。
ただ、踏みとどまる理由は一つ。
消そうとしたほのかな思いが消えないこと。

私はこんなに乙女だったのか。
なんて自分でも笑ってしまう。

会社に行けば姿を探してしまう。
見つけたら声が聴きたくなる。
話をすれば、笑顔を見たくなる。

こんな思いはなくなればいいと思えば思うほどにどんどんと膨らんでいって、まるでお見合いをすると返事をすれば、課長への裏切り行為にまで思えてしまう。

別に私と課長は付き合っているわけでもないし、気になると言ってくれたけれど、特にそれ以上何もない。

出かけたのだってあの陶芸体験に行っただけだし、会社でも仕事上の会話だけ。


でも、課長は私自身を見てくれた。
不器用だけど一生懸命で努力家だと言葉をくれた。
やっと御影屋の孫娘という肩書き抜きで見てくれる男性に出会えたんだ。

だから芽生えてしまった思いはなかなか消えてくれなかった。