寡黙な御曹司は密かに溺愛している

「おはよう。どこに行きたいか決めたか?」

「いや、それがいろいろ考えたんですが、決まらなくて。課長の行きたいところ、もしあればそこにしませんか?」

「俺の行きたいところか。まあいい、とりあえず、乗ってくれ」

助手席を開けて、中へ促してくれる課長に私服のせいもあってか、少し緊張してしまう。

金曜日も乗せてもらったけれど、やっぱり高級車に乗るのはためらうな。
御影屋の孫と言われてきたとはいえ、こんな車、乗ったことないから。

シートベルトを締めていると、運転席に課長が座った。
どうしよう、この間は短時間だったけれど、今日は丸一日二人だ。

会話も続かないだろうな。
そんなマイナスなことばかり私は考えていた。

でも、私とは反対で、課長はなんだか楽しそうに見える。
パチパチと目配せをしていると少しだけ意地悪く課長が笑った。

「俺の行きたいところ、本当に行ってもいいのか?」

ハンドルにもたれかかるようにして、含み笑顔。

「いいですよ、どこですか?オーケストラ鑑賞ですか?それとも美術館?」

また私を試すように言う課長に言い返す。
とりあえず、お金持ちと言うとなんとなく音楽や芸術鑑賞のイメージだな。

と少しふんっと踏ん反り返るように言った私に、課長はハンドルから手を離し、少しだけ距離を詰めてきた。