婚姻届と不埒な同棲

「ったく、金持ちの考えることは、俺ら平民にはわかんねーよな」

なんで、そんな悪く言うの…?

あなたたちは、何も知らないじゃない。
冗談だとしても笑えないから。

「勝手なこと言わないで」

「え…、萩花?」

空気が凍っていくのがわかる。
いくつもの視線が肌に突き刺さる。

間違ったことを言ったとは思わない。
でも、空気を読まなかった自覚はある。

…気まずい。

その空気に耐えられなくなり、うつむいたままその場を去った。

脳裏に浮かんだのは、旦那様の、早苗さんの、拓斗くんの温かい笑顔だった。

目の前が涙でぼやけていく。

「…」

悔しさを押し殺せず、目の前にあったグラスを一気にあおった。