婚姻届と不埒な同棲

「わ、私は、この家でかつてメイドとしてお世話になって、あなたはその主の御子息なの。
同じ部屋で寝泊まりなんてあり得ない。

子どもの頃みたいな我が儘が通る訳ない」

「そうだね」

「ひゃっ…」

近いんだけど…。

いつの間にか、私は彼の腕の中にいた。
さっきまで主導権は私にあったはずなのに。
こんなにもドキドキさせられるなんて嘘みたい。

「俺…、もう子どもじゃねーよ」

耳元で囁かれ、肩がピクッと跳ねる。

離されても、妙に艶のある声だけが耳に残る。
心臓が高鳴って、拓斗くんの顔をまともに見ることができない。

「あの頃はテストで満点とって喜んでたからなー。

よしっ。荷物運ぶか。
萩花も俺の部屋見に来いよ。久しぶりにさ」

さっきまでの色っぽい視線や雰囲気とはガラリと変わって、年相応の笑顔へと戻った。

乱された私の心を返して!

彼の背中に向かって無言で叫んでやった。