「リュウ〜!パパが呼んでるよ!」
「えっ、あ、ぅん。ごめんね。今行く。」

あれから、ひとりになって行くあてのない僕を拾ってくれたのは、父の同僚の人だった。
よくしてもらっている。決して失望させるような真似はしてはいけないと、9歳の心にしっかりと刻んでいた。

ここを追い出されたら、本当に行くあてがないのだ。(施設入りはなんだか避けたかった。)

少し上擦った声を咳払いして誤魔化しつつ、すぐに“結城さん”の下へ向かう。

━━パパと呼んでくれると嬉しいな、リュウくん。
そう言われたこともあったが、少し恥ずかしく、まだ結城さんと呼ばせてもらっている。

ああやめだ。こんな事を考えていたら、なんだか顔が熱くなってきた。

右、右。次は少し進んで今度は左。
女の人がこっちを見ている、少し不気味な絵画が飾られている壁があったら、そこからまっすぐ進んで奥から2番目。この扉だ。

とても広い、お屋敷のようなこの家にも、ずいぶん馴染んできた…と、思う。
いつもここに結城さんはいる。
大きくふかふかしてそうな皮の椅子に座り、それに見合うほど大きなレトロな机に脚を挟み込み、ゆったり書類に目を通している。

これがいつもの光景なのだ。

校長室みたいで、少し緊張するけれど。