「お前、俺が怖いのかよ?」



大きな目の下に直接くっついた首を、何度かゆっくりと左右に振りながら、僕に聞き返した。



そいつは、物知りな夏の王様だ。そして、僕が最も恐れる巨大な目玉でもある。


~プロペライダー~


彼はプロペライダーと名乗っていた。



何とも幼稚で胡散臭く、馬鹿げたネーミングだと、現在の子供達は鼻で笑うだろうか。




今時、特撮ヒーローモノでも、使いそうにないそのネーミングを彼は堂々と名乗った。




勿論、目玉しかなく表情など伺えない彼だが、口調は何とも自慢げで、言ってやったという押し強さが滲み出ていた。




そんな彼を僕は本気で恐ろしがっていた。
何しろ目玉が喋るのだ。恐ろしくない訳がない。




両親からは「何でこれが」という白い目を向けられた事もあったが、僕からすれば、この大きな目玉を部屋に置いておく両親の気が知れない。




そのプロペライダーが、ある日いきなり僕に声をかけてきたのだ。
それは、いきなり本題を突く言葉だった。まあ、こんな目玉に世間話をされるのも、それはそれで奇妙なので、僕はひとまず息をのんだ。





「お前、俺が怖いのかよ?」彼の一声はそれだった。
「怖いよ」




「どこがだ?」彼は続けて問い返す。「俺が目玉みたいだからか?」




分かっているなら、最初から聞く意味なんてないじゃないか。と僕は小さく反発すると、彼は目玉の下から生えた首をゆっくりと振る。




彼が首を振れば、爽やかな夏の風が運ばれてくる。その爽やかさと目玉の奇妙さが、何ともミスマッチで、僕は僅かに後ずさった。


「プロペライダーは、何でそんな目玉をしてるんだよ?僕より大きな目のくせして、顔がない。それなのに、喋ってるし」




僕の声は情けない事に、上ずって震えていた。漫画によくありそうな、好きなこの前で上手く喋れない控えめな男子みたいだ。