もともとこの国の肖像画というのは高値で、庶民にはなかなか手が出せない。

 たとえばローラの経営するちいさなカフェで言えば、ひと月の儲けがいいときで五千ルテ。
 そこから生活費を引くと、食材も購入することを考えると千ルテあまるかどうかだ。

 ユリウスの肖像画は、ほかの王族や侯爵などと比べてもいちばんの高値で売られている。
 安くて十万ルテ、国王主催のイベントなどでいちばん安く売られても八万ルテは下らない。
 しかもローラもほかの女の子たちとおなじように、ユリウスに憧れていた。
 五万ルテのツケなんてかわいいものだ。


「手の届かない人ってわかってるけど、肖像画を手にしたら恋しくて胸が苦しくて」

「わかる! わかるわぁ! 恋ってそういうものよね!」

「だよね! さすがマルグリット、わかってくれる!」


 手を取り合って共感し合っていたふたりだが、マルグリットが「ん?」と首を傾げた。


「ちょっとそれ、よく見せて」

「ん? どうしたの?」


 ユリウス王子の肖像画を手にしたマルグリットは、まじまじとその端っこを見つめた。


「……これ、くじつきじゃない!」

「くじつき!? あの、当たりだったらユリウス王子と一日デートできるやつ!?」

「そうよ、この番号絶対そうよ! アルファベットとの組み合わせだもの! これ十万ルテどころじゃないわよ! 二十万ルテくらい軽くするやつよ!」

「ほんとに!?」


 ローラも、その青い瞳でじぃっと肖像画を見た。


「ほんとだ……!」


 ユリウス王子の姿にばかり目がいっていて気づかなかったが、確かに端っこに「A11」と記されている。