「モモ、準備できましたか?」

「あ、はいっ」


今日は私の実家にジュンさんが正式なご挨拶をしてくれる日。

久しぶりにお婆様の家で一緒にお昼ご飯を食べた後、一度部屋に戻ってきた。

スーツをびしっと着たジュンさんの姿に惚れ惚れしながら私もそれに相応しいようにと服を選んだ。



いつものように私の車をジュンさんが運転し、実家に向かう。

車中、ジュンさんの口数は少ない。いつもたくさん話す方でもないけど、なんとなく表情が硬い。


「ジュンさん?具合でも悪いんですか?」

「いえ、」

「あの、疲れてるなら私、運転しますよ?」

「いえ、少し緊張しているだけですから、大丈夫です」

「緊張、ですか?何度も会ってるのに?」


私なら緊張を通り越して熱出ちゃうかもしれないけど、いつも余裕なジュンさんがと思うとちょっと意外。


「お付き合いのお許しはいただいていても結婚となると話は別です」

「…そう、なんでしょうか」

「そうですよ、天ケ瀬桃華を堂地桃華に変えてしまうんですからね」


名字が変わるだけで、親子関係であることには違いない。

確かに結婚したらそう簡単に会える距離ではなくなるかもしれないけど…


「それに、モモは一人っ子ですしね」

「そうです、けど」

「娘はやれないと言われても、頷いてくれるまで何度でも来ますけどね?」


ジュンさんはニヤリと笑ってからハンドルを切った。


「さぁ着きましたよ、モモ」


私は車を降りて、ジュンさんと一緒に実家の玄関をあけた。


「ただいま~」

「堂地さん、いらっしゃい。どうぞ、」

「こんにちは。今日はお時間ありがとうございます」

「まぁ固い挨拶はいいから、入って?」


あの、お母さん、私は?

桃華ちゃんお帰りって言ってくれない感じ?

私は少しだけ寂しく思いながらジュンさんの後について行く。


先にリビングに行ったジュンさんはお父さんに挨拶をした。

そのままついて行こうとしたらお母さんにお茶の準備をするように言われた。


「こういうときは男同士で話をさせた方がいいのよ?」

「え?」

「結婚のご挨拶でしょう?」