「好きのその先の気持ちがわかったからこそ、ずっと一緒に居たいって思ったんです」
「うん」
「…でも、」
自分の気持ちは理解できた。けれど。
『プロポーズはされてない』
『ジュンさんは私を迎えに来てはくれない』
この二つが引っかかっている。
「なんかまだ桃ちゃんの中で迷いがあるってこと?」
「いえ、その、迷いっていうか。……されてないんです」
「何をされてないって?」
ゴニョゴニョと言ったせいかよく聞こえなかったみたいで聞き返してきた望亜奈さん。
「だから、そう思ってるのは私だけかもしれないってことですっ」
「はぁ?!何で思うのよ」
「だって……結婚してくださいって言葉聞いた事ないですもんっ」
「は?!理由はそれ?っていうか、そこ?」
また何言ってんの?みたいな顔で聞き返す望亜奈さん。
「だって、プロポーズってそうじゃないんですか?!」
「そんなわけないでしょう?全員が全員その言葉でプロポーズされるわけないでしょう?」
「ぇ、そう、なんですか?」
「はぁあああああ?!」
いや、だからね。望亜奈さん。
興奮しすぎ、っていうか今度は隣のお姉さん睨んでます。
「あの、とりあえず。落ち着いて?望亜奈さん」
腰をうかせて立ち上がりそうになっていた寸での所を阻止する。
その言葉を聞いて少し周りを見て座りなおした望亜奈さん。
「っていうかね、桃ちゃん。今日とりあえず飲み行くわよ?」
「え?」
今日はまだ月曜日。
それに、昨日あまり寝れなかったし今日こそは寝たいっていうか…。
「私、今日早番なの。だけど待ってるから残業なしで終わらせなさいよ?」
「え、…」
「当然でしょう?六時半きっかりに鈴木さんにメールしてPC電源落としなさいよ?!」
「は、はいっ」
望亜奈さんは怖い顔で凄んで見せた。
「午後の仕事ができないと困るからとりあえず言っておくけど…」
「え?」
「相良さんがした事で桃ちゃんが主任に対して謝らなきゃいけない事なんて何もないわよ。それに、相良さんも随分と勝手なことしてくれたみたいだけど、桃ちゃんは一つも悪くないからっ」
「でも、」
「いいから、帰るわよ。くれぐれも残業にならないようにっ」
「…はいっ」