家の電話が鳴っている事に気付いたのはしばらく経ってから。

いつから、鳴ってた?

慌てて電話を取ろうと近づいた時、留守電に変わり、スピーカーからジュンさんの声が聞こえてきた。


『モモっ、いるなら電話出てっ』

『モモっ、モモっ、聞こえてる?』


叫ぶように呼ばれる私の名前。


なんて言って出ていいのか……




ピー『メッセージをお預かりしました』―――



静寂に包まれる部屋の中。




電話に出なきゃ心配するのに。

折り返す勇気もなくて、呆然と立ち尽くす。



RRRRR ……




再びなりだした電話。



『モモっ、』

「ジュンさん……」



今度こそ電話を取ったけど謝りたい事があり過ぎて、何から言っていいのかわからない

それでもともかく謝りたい。


『ハァー 良かった。モモが出てくれて……』


ほっとしているジュンさんに伝えたいのは謝りの言葉。

心配させて、迷惑掛けて…


「ごめん、なさい……」

『……モモ?』



不可抗力とはいえ潤兄に触れられた…


「……ごめんな、さい」

『モモ?何をそんなに謝ってるんですか?キチンと言ってくれないとわかりません』

「ジュンさ、――っ」


名前を呼ぼうとして、それはそのまま嗚咽になった。


泣いたら余計ジュンさんが心配するのに。

そう思えば思うほど涙がとめどなく溢れてくる。



受話器を持ち、お互い沈黙のまま時間が流れる。



私の嗚咽が少なくなってきた頃聞こえてきた優しい声。


『モモ、落ち着きましたか?』

「…っ、ごめん、…さい……」


落ち着いてきても結局この言葉しか出てこない。

これ以外の言葉は…


『今は無理には聞きませんが、その言葉だけは禁止です』

「ジュンさ、…私っ…―」


言いだそうとするけど、やっぱり言葉に詰まる。

そんな私を察したのかジュンさんは、



『モモ、二十八日に帰ります。それまで一人で大丈夫ですか?』

「…っ、はいっ…待って、ます……」


そういうのが精いっぱいで。


『今日は温かいお風呂に入って、梅酒を一杯飲んだら寝てしまいなさい』

「…はい……」



結局ジュンさんに何も言えないまま。

きっと心配してる…

でも、何を言えばいいのか―――