「潤にぃ、離してっ」
「ヤダ」
「電話――」
「どうせアイツからなんだから放っておけばいい」
ジュンさんだからこそ出ないとまた心配をかけてしまう。
そう思った瞬間、その電話の振動が止まる。
それで安心したのか潤兄はもう一度私に顔を寄せてきた。
「…いやっ」
無意識にその頬をおもいきり叩いていた。
「…桃?」
呆然とする潤兄の隙をついて拘束から逃れ、もう一度なりだした携帯をカバンの中から取り出した。
「もしもしっ」
『モモ?着きましたか?』
「あ、はいっ、お部屋が寒かったので先にお風呂の準備を…」
スラスラと嘘の言葉が出てくる。
ジュンさんに心配をかけちゃいけない。そう思う一心で。
ジュンさんの声がもっとよく聞こえるように携帯を強く耳に当てる。
私はそれだけに気を取られていて、正気に戻った潤兄が近くに来てるなんて事に気づいていなかった。
後ろから伸びてきた手。
耳にあてた携帯を潤兄はそのままつまみあげると……
「さきほどは、どーも」
当たり前のように話し始めた。
「相良です。桃はきちんと家に送り届けましたから。もう用はないですよね?」
『何言って…―』
「それじゃあ、おやすみなさい」
プチッ―――
それだけ言うと目の前で潤兄は携帯の電源を落とした。
潤兄の瞳には先ほどとは違う怒りの炎。
「……潤にぃ?」
やっと出た私の声は掠れ、あまりにも頼りなさそうで、先ほど潤兄を平手打ちした強さはみじんもない。
「もう話は終わっただろ?」
「でも、」
「ここからは東京でのアイツの時間があんだよ。モモとは違う時間で生きてんだよ、アイツは」
「そんなことないっ」
東京だって、こっちだって同じように時間が流れてる。
離れていても重なる時間はちゃんとある。
だからこそ二人の時間を見つけて電話もしてきた。
「桃。これは預かっとく」
「どうし――」
「桃にとって誰と一緒に居るのがいいのかよく考えろ」
「え?」
「それと、謝んねーよ。さっきの事。」
それだけ言うと潤兄は私の携帯を自分のポケットにしまい帰って行った―――

