目の前には望亜奈さんと今月限定のケーキ。そのケーキを餌に望亜奈さんに時間を作ってもらった。

私の話を聞きながら、そのケーキをおいしそうにつついている。
そして全部話し終えると、驚いた様子もなく、


「とうとう言っちゃったんだ。相良さん」


それって潤兄の気持ちを知ってたってこと?


「あの、まさか望亜奈さん、知ってたんですか?」


そんなことはお構いなしにケーキを食べすすめながら望亜奈さんは続ける。


「あぁ、…ん。まぁね」


まぁねって。
それは潤兄が望亜奈さんに相談したってこと?


「あ、相良さんから聞いたわけじゃないわよ?私がね?そうじゃないかなぁって思ってただけ」

「それなら、望亜奈さん教えてくれれば……」


そこまで言ってから言葉が止まった。
何度となく望亜奈さんから言われてた言葉。


『桃ちゃんがわかんなきゃいいのよ』
『ほんとに桃ちゃん気づいてないの?』

そんな感じだった気がする。


これが、その…意味?


「あー望亜奈さん、……言ってましたね。気付かなかったのは私ですね?」

「まーそれはさ。仕方がないと思うんだよね」

「でも、私。潤兄に色んな事相談したり、引越しまで手伝わせて……」


罪悪感。
そんな言葉だけでは片づけられない。


「…これ、聞いちゃっていいのかな?相良さんいつからって言ってた?」


いつから……って。



あのあと―――



「また潤にぃったら、冗談」


そうだよね?

私がそう言った瞬間、潤兄の腕が緩んだから、閉じ込められていたその中からすり抜けた。

一歩下がって距離をとってから潤兄の顔を見る。


顔を歪ませ……ものすごく傷ついた。
そんな顔をしていた。


咄嗟に私は言ってはいけない事を言ってしまったんだって悟った。


「ほーんと、潤にぃにしておいたらよかったよ」


はははって笑ってその場を和ませようとした。でも、それも逆効果だった。


「…俺、本気だから」


潤兄が小さな声だけど、意志の強い声でつぶやいた。

そして、私が落とした携帯を拾うと目の前に差し出した。


「ほら、これ。悪いけど今日はこのまま帰るな。…送っていけなくてごめん、気をつけて帰れよ」


そう言うと潤兄はそのまま二度と振り返らなかった。


私は渡された携帯を握ったまま、しばらくそこに立ち尽くしていた。