あ、携帯落としちゃったな……
傷つかなかったかな?

そんな事しか考えられなかった。

それ以外の事は考えたくないって頭が拒否してる。


「……やめろよ、あんな奴」


頭上から聞こえるのは潤兄の声。


あんな奴?
私の電話の相手が主任だって気付いてる?

強く抱きしめられてるせいで潤兄の顔は窺い知れない。


「アイツと付き合ってから…桃は泣いてばかりだろ?」


泣いてばかり?…そんなことない。
楽しい事だって一杯あって、

ただ泣くタイミングにいつも潤兄が傍にいるだけ。

でも、それは、


「……電話、アイツだろ?」

「あ、……なんか、女の人が、一緒だった……みた…ぃ……」

「そんな奴、やめろよ」



あんな奴でも
そんな奴でも
それでもやっぱり主任じゃないとダメで


「頑張るって…私、決め――」
「頑張っただろ?もういいよ、桃」


もう、いい?
でもまだ辛いって主任に言えてない。

それに、


「でもっあとで電話するって…」
「そうやってまたごまかすだけだろ?」


ごまかす?
そんなことないっ
だって主任は……


主任は?
主任の左手にはめられていた指輪。
でもそれが誰のものかだなんてシルシはない。

虫よけにちょうどいいなんて言ってたけど、むしろそれの方が都合がいいって人だっている。
それに、主任は……誰のものでもない。

私の首にも鎖に通された指輪がある。
でもそれはまだ誰の目にも触れていない。
私たちだけしかわからない証(アカシ)

離れているんだからいくらだって嘘も言える?

疑いはじめたら、どんどんエスカレートしていく。


信じるって決めて
信じる努力をし始めたのに


そんなことあっけなく、こんなにもすぐにもその気持ちは失われていく。


信じたい、のに