彼と愛のレベル上げ

心配して潤兄を見ていたら、さっきとは明らかに違うあきれた声で、


「桃、飲み過ぎか?」

「や、そんなに。飲んでない。それに……」


膝の上に置いていたカバンの中の携帯が振動を伝える。

きっと主任かもしれない。
今度こそ取らなくちゃ。


「あ、ごめん。ちょっと出てくるね」


私は素早く立って店の外に出た。


着信は思った通り主任。


「もしもしっ」


慌てて出るけど、もう切れた後で。
すぐに折り返し電話をする。




一回
二回
三回……



すぐに折り返したのに主任は出ない。



七回
八回
九回……



そして十回目のコールが聞こえたら切ろうと思った瞬間、繋がった。


「あ、あの、さっき電話くれましたよね…?」

『あぁごめん、まだ外?』


外と聞かれて、咄嗟に潤兄の名前を出すのはためらわれた。


「はい。…でも、もうすぐ帰るところですけど」


不意に後ろのドアが開いて、潤兄の声が聞こえた。


「桃、そろそろ…


私が振り返ったら潤兄はしまったって顔をして口に手を当てていた。

そして顔の前でごめんて仕草をした後で少し離れたところに移動した。

黙ったままでいると主任の声が聞こえてきた。


『そう……』


きっと今の潤兄の声は拾ってるだろうから主任には聞こえてるはず。

この前会ったときに潤兄のこと近くにいられて羨ましいと言っていた主任。

しかも今、「そう…」と言ったきり黙ったまま。

その沈黙を破りたくて、あえて言葉をかける私。


「あ、あの、……」

『あぁそうだ。今度の――――


その時、電話の向こうから聞こえた声。


(……、これなんだけど。あ、ごめん…い、電話…だった…?)


その声が聞こえたことで主任の会話が止まった。

そして、


『モモ、ごめん、またあとで…』


主任はそれだけ言うと、あっけなく電話は切られてしまった。