誰もいない墓地

周りを見渡せるような
高台に、馨さんは
眠っていた

私の姿は見えてる?

会いに来たよ

あなたの見たがっていた桜の花を持ってきたよ

今が満開だよ

とても綺麗に咲いてるよ

心の中で色んな言葉を
叫んでいた

そのたびに優しい風が
私のワンピースの裾を
揺らしていた

私はタバコに火をつけてお墓に手向けた

私はタバコを変えてない

ずっと馨さんと同じ
タバコを吸っている

馨さんの匂いと
同じ匂いがする

そこに馨さんが
居るような錯覚に
陥っていた

桜の花を手向けて
墓石に手をあてた

お墓に桜の花は
不釣り合いだった

でも馨さんは
喜んでくれている
ような気がした

大介と並んで
手を合わせた

長い長い沈黙

鳥の鳴き声だけが
その場に響いていた

タバコの煙が揺れている