馨さんが最後に見たのは私の顔

最後に会話をしたのは私

最後にキスをしたのも私

最後に抱きしめたのも私

馨さんの最期には
立ち会えなくても
その事実だけで
充分だった

それだけで良かった

眠りに落ちた馨さんは
夜中に急変して
亡くなった

奥さんは泣き叫び
その隣の秘書の男性に
しがみついていたらしい

『ご臨終です』

大介はその言葉を
言いながら
泣いてしまった事は
後から聞いた

医師として最低だと
嘆いていた

馨さんが旅立つ瞬間
私は夢の中にいた

夢の中で馨さんと
抱き合っていた

離れないように
しっかりとお互いを
抱きしめ合っていた

目が覚めると
私は泣いていた

それが馨さんが
旅立った瞬間だった