馨さんは目を閉じた

閉じた瞳から
涙が一滴、こぼれた

私はそれを見届けて
病室を出た

私は溢れる涙を
抑えられなかった

秘書の男性が
私を見つめていた

『幸せになって下さい』

私の右肩にそっと
手をあててくれた

『馨さんの奥さんの事
守ってあげて下さいね』

私の言葉に秘書の男性は頷いていた

私は遠回りしてから
大介の元へ向かった

奥さんとの話は終わり
私を抱きしめてくれた

『ちゃんと話せたか?』

『うん。大介のおかげ』

私は震える体を
おさえる事が出来ない

落ち着かせようと
必死になればなるほど
涙が溢れてきた

馨さんの最後の
温もりと優しさが
ずっと残ったままだった

最後にちゃんと愛を
伝えられて良かった

ありがとう、大介