病室を出ると、
秘書らしき男性が
駆け寄ってきた

そして私に頭を下げる

私はエレベーターまで
一緒に歩いた

もちろん他人のフリ

私たちは他人

何の面識もない他人

それを装った

エレベーターを待つ間
馨さんはもう一度
私に謝った

秘書も一緒に
頭を下げていた

『子供から目を離したら危ないですからね。
今後二度と同じ犠牲が
出ないように
気を付けて下さいね』

私がそう言うと同時に
エレベーターの扉が
開いた

エレベーターに乗り
扉が閉まるまで私に
頭を下げていた

私はその姿を
ただ見つめるだけだった

他人の私たちには
それしかしちゃいけない