「…ちょっと待ってください!」

「どうしたの?三月くん。」

「その…ク、クアドロプル?」

「クアドラプルね。」

「クアドラプル、ってなんですか?」

「ナギっちなら知ってそうじゃね?」

「環!それめっちゃわかる!千にこっそり聞いても教えてくんないしさー!」

「やっぱ?つかももりんにも教えてないんだ。」

…クアドラプル?
俺もミツと同じで初めて聞く単語だ。
…いや、どっかで聞いた気がするけれど。

それより、ツッコミたいのは“デート”と言う単語だ。

いや、だって、デートて…この人は冗談みたいな事を本気で言ったりするのだから。
本当に困った人だ。それをツッコもうとしたところで千さんが口を開いた。

「ナギくん。よろしく。」

「hum…では、お教えしましょう。クアドラプル(Quadruple)とは
シングル(Single)等の数え方の4番目にあたる言い方です。」

「そういうこと。」

どうしてそんな回りくどいことをしたのか。
聞けば格好良かったとのこと。
ほかにも理由があるらしく、聞いてもいないのに勝手に話し出した。
かなりどうだっていい。まぁ、トリプルデートとか言うし
それに掠らせたかった、といったところだろう。

「それよりなんで四組でデートなんだよ?俺とそーちゃん集めて
ダブルデートってのならまだわかっけどさ…」

…んんん?こいつ、今なんて言った?
「俺とそーちゃん集めてダブルデートならわかる」…?!

「ちょっと!?環君!?人前でなんてことを…!」

名指しされていたソウは、顔を熟れた赤リンゴのように真っ赤に染めた。
かなり焦っている。そして彼は爆弾を落とした。

「僕たちが付き合ってるみたいじゃないか!実際そうだけど!」

氷でも張られたみたいな冷たい空気になった気がした。
百さんと千さんは相変わらず涼しげな顔をして「壮五!やっちゃたね!」
とでも言いたげな笑顔を浮かべている。

当の本人は「変なこと言ったかな?」というような複雑そうな顔をして数秒。
さっきよりも真っ赤になった。だって、首まで赤い。
さらに直後、顔を青くし始めた。…なんとも騒がしい顔色だ。
それもそのはず。隠したがっている本人が口にしたのだ。
「付き合っている」と。肯定してしまったのだ。

「…ソウ?」「…壮五?」

俺とミツの声が重なる。軽くパニックを起こしているだろうソウの横では
タマが平然とした顔で俺の左斜め後ろにいる固まって動かない八乙女に
「がっくんがっくん」と話しかけている。
それに自由人のナギも加わることにより八乙女はなんとか意識を
取り戻したようだった。

「お、おい。お、逢坂…」

「ひゃいっ!?ななななななんでしょうか!?」

声が裏返っている。余程のことだったらしい。

「お前と四葉って付き合ってたのk「待って!?八乙女そんな率直に聞くか!?
普通!」じゃあどうやって聞けと!?」

「いやもっとこう…聞いてなかったフリでもしろよ!」

「じゃあなんでお前逢坂の事、呼んだんだよ!」

「あれは吃驚したから!そんなこと言ったらミツもだからな!」

「は!?俺なんか知らないけど巻き込まれた!」

ぎゃいぎゃいと騒ぐ。全員変装しているので若者たちがちょっとした
口論をしているようにしか見えないだろう。

「みんなストップ!千!」

「わかってるよ。百。この際だから言っちゃうね。」

「ゆ、千さん!」

「壮五くん。落ち着いて」と千さんがソウをなだめる。
ソウは少し納得していないようだが、自分でバラしたも同然だ。
仕方ないと諦めたらしかった。

「察してるだろうけど、僕と百。環くんと壮五くんは所謂、恋人同士だ。」

百さんがきゃー!言っちゃった!とふざけ気味に照れたがソウは顔面蒼白だし
タマはソウを一応心配しているみたいだがちょっと緩すぎやしないか。

「んー…ここから先は少しわかれようか。百。」

「はーい!んじゃ、壮五とー三月とー大和は俺と向こうでお話しよっか!」

あれよあれよと話が加速していく。
百さん曰く、「二人のため」らしい。二人いというのは俺とミツの事。
ミツはナギに恋していて、俺は八乙女に恋をしている。
そう読んだRe:vela二人は本物のカップルと一緒に遊びに行こうと
俺たちを誘ったらしい。

…有難迷惑とはよく言うものだ。
俺はこの恋心に終止符を打ちたくて打ちたくて仕方がないのに。
どう見たって八乙女が好きなのはうちのマネージャー。
小鳥遊紡だ。彼女は可愛らしい外見に可愛らしい性格を持ち合わせた女性だ。
そんな彼女は世間の男の理想に近いのでは、とすら感じる。
ミツはそんなことないようだが。目の奥が揺れていないのが何よりの証拠だ。
そして彼も先ほどのソウのような爆弾を当たり前かのように投下するなんて
思ってなかったんだ。