道端のアザミ。
デイジーと隣り合わせのアザミ。
美しい、アザミ。

でもデイジーの純白が眩しくて。
アザミが悲しそうにしていた。

みんなアザミよりデイジーが好きだと言うかもしれない。

アザミの花言葉をどこかで聞いた事がある。
ふとそれを思い出した。
「独立」「報復」「厳格」「触れないで」…
悲しい花言葉ばかり。

アザミは優美だと思うし高貴な花だと思うのだ。
でも悲しいからこそアザミという花は成り立つのかもしれない。

隣にいる八乙女を横目で見た。
彼はデイジーに優しく触れた。
ぼそりと何かを呟いていたが線路沿いの道だ。
電車が丁度通ってなんと言ったか聞こえなかった。

(その声の一音一音を聴き逃したくないのに。)

そんな事を思う。
彼のバリトンに近い低く、落ち着く声はよく耳に残る。

電車が過ぎ去ってから言った。

「…もう行くか。」

「…おう。」

なんとなく、名残惜しいと言っているような気がした。
俺も名残惜しいと思う。
だって二人して足を止めるくらい綺麗だったから。
千さんが待っていないならばここで
ずっと足を止めていたかもしれない。

会話は途切れたまま。
肩と肩が触れ合いそうなくらい近くを歩いた。
そうでないと八乙女がどこかに行ってしまう気がした。

それにしても千さんは何を考えているのだろうか。
俺達二人の他にも何人か集めているようだし。

「…なぁ」

「なんだ?二階堂。」

「千さんってマジなんなんだろう…」

「…さぁ。あの人の思考は読めない。読める気がしない。」

「あぁ…ですよね…」

「強いて言うなら俺らの先輩。」

「分かってるよそれは…」

オフなのにオフが潰れた感覚がする。
…きっと、千さんのせいだ。

そしてこの後、俺達は知る事となる。
彼らの“事情”を…