大学3回生の夏休み。
私は工場でバイトをする事になった。
初日、工場内の説明を受けた後、工場長に挨拶をしようと作業場に入った。

入った瞬間だった。
こちらに向かって来る男の子に目を奪われた。
すっごいカッコいい人がいる!
すっごいカッコいい人がいる!
と、心の中で二度叫んだ。

今時の大学生かなという印象のその彼が工場長と話し終えるのを眺めながら、不思議な気持ちになった。

誰だっけ…この人どこかで見たことある…
絶対に知ってる人だ、と。

私は働きながら考え事が出来るタイプだ。
その日は、仕事を覚えながら一日中彼とどこで会ったんだろうと考えていた。

大学でもない、同郷でもない、もっと最近会ったような、身近な人な気がした。

家族とか、そんなレベルで身近な人だったような気さえした。

もちろん家族では無い。
だったら、最近あった祖母の葬式で会った親戚かもしれないと思ったが、そんなはずもなかった。

誰だろう…。
もうそれしか考えていなかった。
頭の中は彼のことばかりで、好きになるのに時間はかからなかった。

でも、私はかなりの奥手だった。
“好き避け”をしてしまうくらいに。
見つめるので精一杯で、話しかけるなんてとんでもない。

そうして数日たったとき、休憩室の喫煙ルームから出てきた私に彼が話しかけてきた。

「タバコ吸うんだ?」
「え、うん。」

それが初めての会話だった。
それから大学生であることや年齢などを話した。

それからは休憩のたびに話すようになった。
休憩が楽しみで仕方がなかった。

メールアドレスを聞きたかったが、どうしても勇気が出せず、毎回の帰宅の電車の中で反省会。

そうして3週間が経ち、私はバイトを辞める事になった。

最後のバイトの日、彼に今日で終わりだと伝えた。
彼は帰りの経路を聞いてきて、バス停まで一緒に帰ろうという事になった。

ここで勇気を出すしか無い!
絶対に帰り道でアドレスを聞こう!

心に誓った。

そして、バイトが終わり、帰る用意をしていると彼が来た。
「すぐ追いつくから歩いといてー」
と言われたので、先に工場を出てバス停に向かう。
後ろを気にしながらゆっくり歩いた。

…来ない!

もっとゆっくり歩いた。

全く来る気配がない!

バス停に着いてしまった。
バスは最終で、これに乗って電車に乗り継がなければならなかった。

バスが来るまでに来ないかな?
ずっと待っていたが、バスが先に来てしまった。

これでもう会えない。
もっと早くに聞いておけばよかった…

電車の中でずっと考えていた。

やっぱりそんなの嫌だ…。

途中まで同じ電車で帰る同じバイトの先輩がいたので、その人に話して頼んでみる事にした。

彼女がいなかったら番号を教えてもらって欲しいと。

奥手な私には、そのお願いすら勇気を振り絞ってやっと言えたような感じだった。

快諾してもらい、次の日ついに私は彼の番号を手に入れた。