特に用事もないが仕方なく帰った両親の家。

東京のこの家には俺は住んだことがない。当然俺の部屋もない、そう思っていた。


「朔也さん、おかえりなさい」


おかえりって、俺の家じゃねーし

しかもこの家、初めて入ったんだけど


東京で業務を拡大していった親父は、中学の時にはすでに地元には住んでおらず、月に一度顔を合わせればいい方だった。

母親も親父の家と地元を行ったりきたりで二重生活をしてた。尽くしていると言うよりも俺から見たら親父の奴隷にしか見えなかった。

そんなだから高校の時には家政婦をつけてくれといって、それ以降ほぼ快適な一人暮らしを過ごしていた。


「朔也、大学はどうだ」

「まぁ、ぼちぼち」

「3年になったらうちの会社に顔出しするように」


は?なんだよ、それ

聞いてねーよ、そんなの


「卒業してからで十分だろ?」

「それじゃ、即戦力で使えないからな。今からでもいいぐらいだ」


ふざけんな

自分の駒としかみてない親父にも

それにずっと従ってる自分にもうんざりだ


「実は俺、やりたいことあるんだよ」

「やりたいことなど、大学時代のうちにやっておけ」

「…俺、大学でたらイタリアに修行に行くから」