副社長を呼び捨てだ。

二人を交互に見れば、慈英は睨み、武内さんはニヤリとしている。


「武内さん？」

「恵に頼まれた。お邪魔かな？」

「いえ、とんでもないです。」


『恵？』

恵さんも呼び捨てだ。

それに『お邪魔かな？』と聞こえた。


「邪魔。恵に仕事を押し付けた意味がないだろ。」

「やっぱりな。恵が怒ってたぞ。」

「たまには二人にしろ。」

「それは無理だ。俺も大事な新人秘書を守る義務があるから。」

「…………。」

「慈英も分かってるだろ？」

「…………。」

「モテて嬉しいのも本命が現れるまでだったな。」


クスリと笑う武内さんと不機嫌な慈英を交互に見ながら話を聞いていた。

ロビーに到着したエレベーターから下りれば、自然と集まる視線が痛い。

目の前を歩く二人の長身の後ろを歩いていく。

二人とも目立つ容姿をしているから注目度も上がる。


「慈英の奢りだから。」

「はっ？」

「恵に言われてる。」

「アイツ…………。」


慈英と武内さんの話の内容は険悪だが、表情には出ていない。

二人とも無表情、いや逆に穏やかな雰囲気を醸し出している。

二人のスゴ技に絶句だ。