「心菜。」

「はい。」


何を言われるのか不安で声が小さくなる。

そんな私の頬に副社長の大きな手が触れる。


「心菜が結婚するのは岬慈英。違うか?」

「違わない。」


慈英は何が言いたいの?


「いや、今の心菜が結婚しようとしている相手は岬慈英ではなく、副社長だ。」

「…………同じでしょ?」

「違うだろ。なら何でそんな不安な顔を向けてる。」

「それは…………やっぱり私なんかじゃ釣り合ってない気がしてきて。」

「それは副社長の俺だろ?結婚するのは毎日家で一緒に過ごしている俺だ。」


どちらも慈英に違いない。

副社長も家にいる慈英も同じ人物だ。

私の頬を撫でていた手が離れていく。


「おっと、秘書に触れるのは禁止だった。」


慈英が笑みを向ける。

その笑みが家で見る慈英と重なる。


「心菜、よく考えて。心菜の婚約者は俺だが、副社長ではない。ずっと一緒に過ごしてきた俺だから。」


慈英の言いたい事は伝わる。

副社長としての慈英と恋人としての慈英を一緒にして欲しくないと。