コンコン…………。


「副社長、失礼します。」


恵さんが声を掛けて副社長室を開けた。

初めて入る副社長室に緊張が走る。


「副社長、雨宮さんをお連れしました。」

「ありがとう。」


聞き慣れた声に顔を上げれば、椅子から立ち上がり、私に近付いてくる副社長の姿が見える。

いつもの慈英とは雰囲気が違う。

まさに入社式で見かけた副社長のオーラを身に纏っている。


「雨宮さん、今日から宜しく。」

「あっ、はい。こちらこそ、宜しくお願いします。」


目の前に立つ副社長に深くお辞儀をした。

今日から私の上司になるのだ。


「副社長、秘書へ触れるのは禁止です。」

「えっ？」
「チッ…………。」


頭上から聞こえてきた恵さんの言葉に頭を上げた。

目の前に立つ副社長の手が私の頭を撫でようとして空に浮いている。


「副社長、ここは会社で雨宮さんは秘書の一人です。他の秘書と同等の扱いでお願いします。」

「…………。」


凛とした恵さんの声に副社長が背を向けてデスクに戻っていく。