『心菜。』


慈英の声に顔を向けた。

どうやら考え事をしていて、いつの間にか慈英から視線を逸らしていたようだ。


『心菜。』

『ん?』

『その内、婚約については公表する。』

『…………。』

『いいな。』


慈英は本気なの?

流されるままに婚約はしたが、学生だった私は結婚に対する現実味があまりなかった。

同棲の延長みたいに考えていた。


『心菜?』

『ん?』

『今更、婚約は破棄できないから。』

『…………。』


慈英が私を抱き寄せる行動に顔を上げれば、視線が交わる。

じっと私を見据える彼の本気度が伝わってくる。


『もう俺のモノだ。』

『…………。』

『誰にも渡さない。』


近づく慈英の顔に目を閉じた。

本気?

今更ながら不安が押し寄せ始めていた。