賢の言葉に料理の手が止まる。

一緒に暮らすようになって、慈英の忙しさは理解しているつもりだ。

夜遅くなる日も多いけど、朝は一緒に起きて朝食も食べる。

早く帰れる日は嬉しそうに私から離れない。

だから慈英の気持ちは信じている。


「心菜は寂しくないの?」

「…………。」


それは寂しい。

だけど大企業の副社長である慈英が仕事を蔑ろにするべきではないのも分かっている。

だから絶対に寂しいなんて言わない。

言っては駄目な気がする。


「心菜は我慢してない?」

「…………してない。」

「元彼と比べて、兄貴と付き合ってて楽しい?」

「わからない。だって慈英が初めての彼氏だから。」

「マジ?」

「うん。」


驚きの表情を向ける賢と慈英の顔が重なる。

慈英にも驚かれた気がする。

そんなに珍しい?


「心菜は結婚するつもり?」

「…………まだ先の話だよ。」

「まだ若いんだし、他の男とかにも目を向けてみたら?」


賢がキッチンに立つ私に近づいてくる気配に顔を向けた。


「心菜、本当に幸せ?」


賢の真剣な表情に手を止めた。

明らかに雰囲気が違う。


「心菜は幸せになれる?」


賢の言葉が私の心に響く。