そんな慈英も家と会社では全然違う。

それは今日の入社式で感じた事だ。


「副社長としての慈英を初めて見た。」

「どうだった?」

「カッコ良かった。私と慈英の距離を感じた。」


風呂から上がり、2人で夕食を食べていた。

目の前の慈英の手が止まる。

その姿に視線を上げた。


「距離?」

「うん。副社長と新入社員の距離。」

「あー、まあ会社では俺も上に立つ立場だから。」

「うん、凄く遠くに感じた。私なんかが彼女でいいのかなって。」


本当に感じた。

まったく釣り合ってない。


「俺は心菜がいい。心菜は俺では不満?」

「違う。慈英が不満なのかもって。」

「俺は心菜がいいって何度も言ってる。まだ分からないなら、今夜は激しく抱くよ。」


言葉が出てこない。

何て?

視線を上げれば、真剣な表情の慈英が突き刺すように見ている。


「体に教える。俺の愛を疑わないように。」

「…………凄い事を言ってるよ?」

「俺の心菜への気持ちを疑ってる?」

「…………疑ってない。」


こう答えておくべきだ。

これが正解だろう。


「時間も早いし抱くけど。」


宣言はいらない。

ニヤリとする慈英から視線を逸らした。