誰も口を開こうとしないが、慈英は構わずに話を進めていく。

両親は固まっている。


「勿論、先の話も考えての提案です。」

「先の?」


やっと父が口を開いた。

その言葉に大きく頷いた慈英は深く頭を下げた。

その姿に家族の視線が集まる。

勿論、私の視線も慈英に突き刺さっていた。


「勿論、結婚も視野に入れての話です。」

「結婚?」


父の驚きの声は無理もない。


「まだまだ学生の心菜さんです。先の話にはなりますが、結婚を考えての同棲と考えて頂いて大丈夫です。」


私も突然の話に慈英を見つめる事しか出来ないでいた。


「今年で29になります。勿論、経済力も自信があると自負しております。」

「…………。」

「まだ先ですが、心菜さんが社会人になりましたら、結婚も考えて頂けたらと思います。」

「…………。」

「少しでも一緒にいる時間を作りたいのです。認めて頂けませんか?」


両親の反応は予想がつく。

間違いなく頷くだろう。

ミサキ商事と言えば大企業だ。

両親も知っているに違いない。


「心菜で宜しいのですか?」


父の言葉に慈英が大きく頷く。


「はい。認めて頂けるのですか?」

「宜しくお願いします。」


あっさりと両親が認めた。

これがミサキ商事の副社長である慈英のオーラかもしれない。

纏う威厳もオーラも普通ではない気がする。

そんな彼との同棲はあっという間に始まったのだ。

その上、慈英から


「彼女じゃなく、フィアンセだから。」


あっという間に婚約者になっていた。

強引で俺様な本性がメキメキと頭角を現し始めていた。