それでも表面上は変化なしの慈英だが、腕が私の腰に回っているのに気づいてないのか?

不安が態度に出ている。

わたしの隣に座る恵さんも気づいたようだ。


「兄さん、嫌われたら終わりね。」

「恵、そんな事で嫌われる訳ないだろ。」

「どうかな?心菜ちゃんはピュアな部分が多いから。」

「…………。」


黙る慈英の腕が私を引き寄せようと腕に力を入れてきた。

恵さんに傾いていた体が反対側の慈英の方に傾く。


「ちょっと。」

「ん?」


知らん顔で私を引き寄せる慈英と目が合う。


「副社長、雨宮さん、イチャつき禁止。」

「っで、副社長は秘書交代とか考えてませんか?だって奥様が秘書なんて窮屈でしょ?」


『窮屈』って何だ?

じっと慈英に視線を送る先輩は諦めてないのか?


「交代はない。それに窮屈って何?会社では副社長と秘書で一線を引いてるから問題ない。」


はっきりと明言した慈英だが、今までの副社長室での触れ合いを思い起こす。

まあセーフか?

そんな事を考えながら、調子よくチューハイを飲んでいた。