その時、副社長室の扉が開いて驚きに振り返った。


「賢、ノックしろ。」

「心菜、帰れる?一緒にカレー作ろ。」

「カレー?」

「今日はカレーをリクエストした。」

「チッ…………。」


いつもの2人だ。

私の隣に立つ賢とデスクで不機嫌になっていく慈英を交互に見る。


「俺の嫁だ。」

「岬家の嫁だろ。」


賢の言葉が胸に突き刺さる。


「俺の家族でもある。」


賢を見上げれば視線が交わる。


「心菜、家族だろ?」


賢の言葉に泣きそうになるのを、唇を噛み締めて堪える。

賢の優しさだ。


「うん。」


賢に微笑んでみせた。

途端に手が伸びてきて抱き寄せられる。


「ちょっと会社。」

「婚約者だと知れ渡ってる。」

「だけど秘書。」

「チッ…………。」


私を抱き寄せていた腕が離される。


「兄貴、お先に。」

「気をつけて帰れよ。」


デスクに戻っていく背中を見つめる。


「心菜、帰るよ。」

「うん。」


遠慮はいらない。

賢が教えてくれた。

私は岬の嫁でもあるのだ。

賢や恵さんとは家族になるんだ。

少し心苦しさから解放された。


「賢、ありがとう。」


廊下で小さくお礼を言えば、頭を撫でられた。

賢は優しい男だ。