誰もいないエレベーターで岬親子が会話を始める。

それも婚約の話だ。

会社で聞かれたら大変なのに。

その前に武内さんにもバリバリ聞かれているし。


「親父、その日は心菜と一緒に挨拶する。」

「わかった。」

「社報で知れ渡るよな?」

「そうだな。俺の婚約発表を思い出す。」

「どんな感じだった?」

「まあ役員は反対とかない。だが社員の反応が凄かった。」


社員の反応?

確かにダンディーな容姿から、昔はモテたに違いない。

岬家の遺伝子的にモテただろうけど。


「心菜さんは副社長秘書だから、俺の時より反響は凄いだろう。」

「俺の秘書にしたのはマズかったか?」

「いや、そこは慈英の力量だな。心菜さんを秘書にして、慈英自身が以前より仕事が出来ない男になったか?」

「変わらないと思う。」

「変わらないじゃダメだ。出来るようになったアピールをしろ。」

「…………。」

「それぐらいの覚悟で秘書にしたのだろ?違うか?」

「いや違わない。」

「頑張れよ、慈英。」


役員階に到着したエレベーターから下りていく二人を見送る。

そして私も秘書課へと急いだ。