「一旦戻ってみましょうか。あれだけ人がいれば見失っただけの可能性もありますし」
「ああ。母親の方も探してるかもしれない」
ぽろぽろと泣き出す男の子の涙をハンカチで拭ってあげる。
大丈夫だよ、と声をかけているとようやく落ち着いたみたいで。
私が手を離すと、神崎さんが軽々と男の子を抱きかかえた。
「よ、っと。お母さんに会いに行こうな」
「わー!高い」
神崎さんに抱っこされて目線が高くなったことが楽しいのか、きゃっきゃと笑う。
意外だった。なんとなくイメージでは子供とか苦手そうなのに、何の躊躇もなく抱き上げて。
その意外性に驚きながらも今は母親探しに集中しないと、と拓也君に向き直る。
「拓也君はどの場所で遊んでたのかな?今持ってる水風船のとこ?」
「ううん、金魚見てた」
神崎さんと目を合わせて、人だかりができている金魚すくいのブースへ行ってみる。
「どう?ここに拓也君のお母さんいる?」
「……いない」



