「水野、ちょっといいか」

芹澤部長に声をかけられ、一旦原稿から目を離した。

もう少し整理整頓をした方が、と言いたくなるような部長専用デスクの前で姿勢を正す。

「実はな……水野には重要な任務が課せられることになったんだ」

「今放送中のドラマのマネはいいので要件は」

「あ、お前もあれ観てる?面白いよなぁ」

豪快且つマイペースに笑うこの男が、最年少で部長まで登りつめた人物だと信じたくはない。

確かに仕事はできるし自分じゃ敵わないところばかりで尊敬しているけど。

「ドラマは置いておいて。どういったお話でしょうか」

「再来週から、蓮見先生を担当してもらうからよろしく」

「……蓮見先生の担当編集者が、私?」

蓮見夏希先生は、次々と文学賞を獲得し国内外で人気の新進気鋭の若手作家として名をはせる人だ。

一流の実力があるのは勿論のこと、モデルのような体型にルックスの良さから世間では王子様と呼ばれている。

「どうして私が蓮見先生を?前任の杉本さんは」

「ああ、彼には新設する部署に移ってもらうことにしてね」

「誰が部長になるんだろうって思ってましたけど、杉本さんになったんですね」

「そう。だから後任は君に頼みたい。水野の今までの実績を考えれば、当然の采配だ」