学校からバスに乗り、飛行機へ乗り継いで目的の空港に到着。
空港からまたバスに乗って、目的地へ向かう。

途中、休憩を兼ねてお土産屋のあるところへバスが停車した。
「いいかー時間内に戻ってこいよー」
土産をここで買うのもOKらしい。
先に買っておいたほうが忘れなくて良いかもしれないぞと先生までもが言う。

「せっかくだし、行ってみようか」
私達はバスを降りて、驚いた。

「……寒っ!!」
この時期なのに、なんて寒い。
道路の脇にまだ雪が残っている事に関しては何となく理解していた。
今日は例年より寒いとガイドさんが車中で話していたが、ここまでとは。
少し雪がちらついている。本当に4月なのだろうか。

私達は制服の上に何も羽織らず出て来たのだ。
急いでお店の中に入る。

「はービックリした。」
自動ドアの内側に入って両腕をさすりながら、思わずそう呟いた時。
「頭、雪積もってんぞ」
ふいに後ろから頭をポンと叩かれた。
野々村、だ。

「え、マジ?」
言われて思わず頭に手を乗せる。

「ウソ。まだそんなに降ってなかったろーが」
ひゃははと笑う野々村を見て、少しイラッとした。

「もうっ、くだらない冗談やめてよね。時間がもったいない」
「そんなに急がなくても目の前にバスがあるから余裕だろ。それよかお前、風邪大丈夫なの?」
心配してくれた事が、嬉しい。
だけどそれを表情には出さずに、軽く返事をする。
「あーうんもう大丈夫。ごめんねー連絡くれたのに返事できなくて。昨日まで死んでたからさ」
「昨日までって……よく来れたな。」
彼は眉間にしわを寄せて、怪訝な顔をして私を見る。

「えーだってせっかくの旅行じゃん。根性で来たよ。」
そんな私の台詞に彼は吹き出して
「……みやのっちらしーなソレ。根性か」
彼の笑顔が見れた。よかった。
それだけで少し、あったかくなる。
「そだよ、私にはコレしかないからね」
フフンと腰に手を当て、胸を張ってそう答える。

「でもお前、病み上がりにスキーとか無理すんなよ。素っ転んだらヤバイぞ」
「分かってるって。同じ台詞を近藤さんと松田にも言われたよ。」
私は苦笑してそう伝える。

「そりゃそうだろな。」
アッサリ認める彼に少し残念だと思いつつ、このままだと肩身が狭いので話題を変える。
「ねぇ、オススメのお土産ってある?」

「土産?ここで?」
「そ、一応見るだけ見ていいのがあったら買おうかなって」
「あの角に置いてるやつ美味かったぞ。」
彼はそう言ってショーケースの一角を指差し、自分の手に持っている袋を持ち上げて見せた。

「……買ったの?」
「おうよ。即買い」
「決断早っ」
「そうか?チャンスは逃したらダメだろうが」
それもそうだが。

私はどちらかというと優柔不断なのでその決断力が羨ましい。
少し癪に触るが素直に言われた所を見る。
試食品が置いてあり、皆でああだこうだと試食している。
私もその間に滑り込み、試食品を口に入れてみた。

「……美味しい」
「だろ?」
気付けば野々村も来ている。
「アンタ買ったんじゃなかったの?」
「みやのっちの反応見たかっただけ」
「なんで」
「オレ様が勧めたモノに間違いはないからな」

何だよそれ。どこまで自意識過剰。
ふーん、と適当にスルーして。
「おばちゃん、これ1箱ちょうだい。」
お金を渡して袋を受け取る私を満足そうに眺めて
「やっぱり買うと思った」
野々村は私を指差して笑った。

なんかムカツクんですけど。
殴ってもいいですか。


「だってホントに美味しかったんだもん」
「だろ?」
「アンタが作ったワケじゃないでしょーに」
くだらない、と吐き捨て
私は他のお土産を物色しているユキたちの所へ行った。

顔が赤くなっていないだろうか。
それだけが心配だった。

クラスが違うのに、こんなに話していて
他の生徒にも変に見られないだろうか。

私の考え過ぎ?

アイツはきっと、誰とでもああいう風に接する事ができるんだ。
思い出せ、過去を。
中三の図書館もしかり。
過去にも何度となくあっただろう。
他の女子とも楽しそうに話す彼の姿を。

そして。それを思い出せるほどに
たくさん彼を見て来たのだと思い知る。

ちょっと、長すぎるよね。
どんだけ見つめてきたんだか。

思わず溜息が漏れてユキに変な顔をされる。
「麻衣、大丈夫?」
病み上がりを心配しているようだ。
「あぁごめん大丈夫ダイジョウブ」
両手を降って何でもないとアピールする。

そろそろ時間だ、と皆でバスに乗る。
野々村の姿はもう、なかった。

また、会えるかな。
クラスが違うと行動範囲も違うけど。
同じ所に来ているのだから
きっとまた、どこかで会うだろう。

旅行はまだ、これからだ。