「あ…チクワ悪い」




私の声にハッとした宗平はそう言いながらポケットを漁った。




その動きにびくりと反応する綾美さん。




恐る恐る振り返る綾美さんと目があった。




「あー…えっと、なんかスミマセン」





なぜか謝る私。




でもなんかそうしないといけないような気になってしまって。




目元を手で拭うと、綾美さんは小さく頷いた。




よく見てみると、とても可愛らしい顔をしている。




一体この人は誰なんだろうか。










「ちょっと綾美離れて」




綾美さんが手を離すと宗平は私の方へ歩いてきた。







「タクシーで学校まで行って荷物置いてきてくれるか?」




そう言って荷物でいっぱいの私の手に五千円を握らせる。




「そこまで送る」




自分が持っていた買い物袋を片手に全て持つと、宗平は私の持つ買い物袋を手に取った。





「あ、えと…わかった」




踵を返した宗平に付いていく。




「綾美、そこにいろ」




「…うん」





後ろからしか宗平の様子を伺えないけれど、少しだけ見えた横顔はやっぱりいつもとは違って。




意地悪な宗平も、笑った宗平も、真顔の宗平とも一致しなくて。




私に見えている光景は一体なんなのか、ちっともわからなかった。